「深夜特急2 マレー半島・シンガポール」 / 沢木耕太郎




文庫版全6巻ある「深夜特急」の第2巻。

この巻では主人公〈私〉がマカオからタイ、マレーシアを経てシンガポールまで旅をする話が収録されてます。

最近、ぼくはヨーロッパへちょっとした旅に出たのですが、帰国してから直ぐ、読みさしであったこの巻を先日読了しました。

訪れた場所は違えど、読んでいる途中「あー、俺の時もこうゆうことあったなぁ」などと、作中の主人公に降りかかる出来事や海外一人旅あるあるなどに共感する場面がいくつかありました。

 

あらすじ

主人公である<私>は、日本を離れ最初に訪れた街である香港・マカオに別れを告げ、次の目的地であるタイのバンコクへと向かう。

しかし、バンコクに入ってからそう経たない内に、街もそこにいる人々もどうも自分にはしっくりこず、香港やマカオで感じたような熱狂をここでは味わえないのではないか、という疑念を抱くようになる。

次に向かったマレーシアで泊まった娼婦の宿では、住み込みで働く陽気な娼婦たちと次第に交流を深めていくようになり、「青春の渦中」に放り込まれたような不思議な思いに捉われることもあった。

しかし、ある日の一人の娼婦との会話で、いつスタート地点であるデリーに辿り着くことが出来るのか不安になってしまった主人公は、翌朝シンガポールへ発つことを決意する。

シンガポールでは、街でたまたま声を掛けたニュージーランド人の二人の若者に安宿を紹介してもらう。彼らの旅の目的は世界一周。

彼らとの会話を通じ、主人公は自分が半年という期間を決めてロンドンを目指す必要性がないと改めて考す。

そして、それまで知らず知らずの内に追ってしまっていた香港の幻影から逃れるべく、中国の文化圏に属さない文化の全く異なるカルカッタへ自分は向かうべきなのだと思うようになる。


香港で体感した熱狂を追い続ける主人公

人々との交流がどこか上手くいかないバンコク

「深夜特急」の醍醐味の一つでもある主人公と現地人との交流の場面は、バンコク編でも沢山出てきます。

空港に降り立った主人公が、ローカルバスに乗るために小銭を交換してもらおうと声を掛けた若者。

街中で、代わりに寄付をしてくれと造花のカーネーションを無理やり押し付けてくる男たち。

日本語を教えてくれる日本人を紹介してくれ、と厚かましくも頼んでくる男。

しかし、そうした主人公と現地の人々との交流は、ほとんどの場面でなんとなく上手い方向には進みません。

詐欺まがいの物売りや、出会ったばかりなのにも関わらず、きちんとした職に就く友達を紹介してくれと言ってくる非常識な人間に対して、何もそこまで誠実でなくてはいいのでは?と読んでいて思ってしまいますが、主人公の抱く感情はどうやら違うようなのです。

そして、そうした彼らの働きかけに上手く応えることが出来ないことが主人公の胸には棘のように残り、バンコクを直ぐに経とうと思わせる大きなきっかけの一つになってしまいます。

 

マレーシアでの売春宿

安宿に泊まることが基本の主人公は、ペナンに着いてから直ぐ見つけることが出来た安い宿に、そこが売春宿だと知らずにチェック・インしてしまいます。

最初は何も知らないことを娼婦たちに笑われていた主人公でしたが、実際に会話をしてみることで、彼女たちがとても陽気で魅力的な人間であることを知っていきます。

そして、彼女たちに寄生しているヒモの男たちも同様に良い人が多く、主人公は他では決して経験することが出来ないそれなりに楽しい日々をその場で過ごします。

しかし、ある日仲の良くなったヒモの一人が突然日本の批判をし始めます。

「日本の企業はひどい。ダムを作れば日本の資材と技師で作ってしまうし工場を作れば組み立て工場ばかり。マレーシアの連中には何ひとつ勉強させず、安い賃金でこき使うばかりだ。アメリカの企業は五十パーセントも上積みして給料をくれるというのに、日本の企業はマレーシア並かそれ以下だ。それならどうしてそんな会社に勤めるのかと言いたいんだろ。わかってるさ。でも、マレーシアには仕事がないんだ。それをいいことに、日本人は吸い上げることしか考えない。」

「深夜特急2」

確かに彼の言うことは一理あるでしょう。日本の企業が海外に進出する最大の理由のひとつとして、現地労働者の賃金の安さがあるのは否めません。

この場面の面白いところはやはり、偉そうにこの発言をしているのが一日中働きもせず、女の金だけを頼りに生活しているヒモであるということです。

主人公はそのことを一旦は指摘しようとしますが、「それを言ったらおしまいよ」と思い改め、結局はどうでもいいやという気持ちになってしまいます。

 

シンガポールでのニュージーランド人との会話

シンガポールに到着した主人公は、現地で知り合ったニュージーランド人の若者たちと少しの間行動を共にします。

年齢、そして旅の上でも彼らより少し先輩だとわかった主人公は、旅の仕方の知恵のようなものを彼らに伝え始めます。

  • 食べ物は土地の人が食べたり飲んだりしているものが安く、おいしい
  • 宿に困ったら中華街を探せばいい。そこには安くて安全な宿が必ずあるものだから
  • 旅先で出会う人に必要以上に警戒してしまうと、新しい世界に入ったり、経験をしたりするチャンスを失ってしまい兼ねない

 

ぼくは3番目の言葉に特に共感を覚えました。

今回ぼくが旅をする前、ネットで海外における軽犯罪などの記事に目を通していると、トラブルに巻き込まれないようにするには「安易に他人を信用しないこと」という月並みなアドバイスが結構載っていました。

現地人に声を掛けられ誘われて、連れて行かされたお店で高額な品を購入するよう強要される、といった類のものです。

今回の旅の期間中にこういったトラブルに巻き込まれることはなかったのですが、少し警戒しすぎだったかなとも思ってしまっています。

ぼくは街中で如何わしいオッサンに話し掛けられた時は大抵無視していましたので(笑)

ただ、一度プラハで小奇麗な身なりをした女性に声を掛けられたときに、とりあえず事情だけ聞いてみたことがありました。

なんでも彼女曰く、「私の車をここに止めておいたんだけど、運が悪いことにレッカーされてしまったの。車を返してもらうためには5,000円が必要なんだけど、お願いだからお金を貸してくれないかしら」とのこと。

彼女が本当のことを言っていたのかどうかぼくには判断が付きかねましたが、結局ぼくは何もしてあげませんでした。

話し掛けてきた如何わしいオッサンたちの中には、まともなことを話していた人もいたかもしれないので、もしかしたら<私>の言う様にぼくはチャンスを失ったこともあったのかなと思ってしまいました。

 

さいごに

作品を通し、主人公が行く先々でずっと不満を抱えたままなので、読んでいるこちらも少しがっかりした気持ちになってしまったのは否めません。

1巻が良すぎたせいか余計にそう感じてしまいました。

しかし、かと言ってつまらないという訳ではなく、2巻には2巻なりの面白さがありました。

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